Sound Loft 探検隊が行く!
JRC 4558D の巻



 それが要、肝である事は判っていた。
1980年代のオリジナルのJRC4558Dと現在(2003年)入手可能な
リシューともいえるJRC4558Dはトーンが違う。

リシューからオリジナルに付け替えると、まるでフィルターを1枚取り去った様に
スッキリと抜け、濁りのないトーン。ミッド〜ミッドローがスッキリして
ハイ〜ミッドハイが気持ち持ち上がった感じ。全体としては栄養失調者が
点滴を受けた後の様なパワーに満ちた、ハツラツとしたイメージ。
そして、4〜6弦をヒットした時の解像度の高さには驚かされるだろう。

しかし相手は80年代の絶滅品種。1つ2つは用意できても
(事実、極初期のいくつかにはヴィンテージの4558Dを使用していた)
多数の顧客には決して対処できない......


「本当はオリジナルを使いたいが.....」

これはウチ同様モディファイ製品を販売しているアxxグマン等ブランドメーカーや
後年リシューを発売したMxxONも同じ思いだろう。

しかしブツはない。ならばどうするか?
最も近い現行の物を使用し、オリジナルに近い所までもっていく。
この点でもウチと前述のメーカーやブランド製品は一致している。
そうするしかない。現状ではベストな選択だ。

そうしてIbanez TS-9リシューモディファイの販売を始めたのが2000年のいつ頃だったろうか?
こちらの予想以上に好評を得て、サイト等でのクチコミで広まったらしく
ウチの名前を良く見かけるらしい。後追いのクローンも多く出現しているらしいが
元々ウチがやってる事もクローン作りなので別に気にしない。

現状手に入るパーツを使用してのモディファイとしては満足のいくデキだ。
それでも心の奥底でいつも思う事...
「オリジナルオペアンプがあれば...」

ある日1本の電話で事態は急変した。

「ヤツなら持っているかも知れない!」

早速コンタクトを取り、確認に出向く。

都内某所。

「本当にこんな所に?」
「襲われるんじゃなかろうか?」
「拉致られても金なんか無いぞ」
くだらない事を考えている私には構わず、重い扉が
耳障りな軋み音を発しながら開けられた。

カビ臭く薄暗い倉庫の中に潜り込む。
正に「潜り込む」といった表現が正しく、通路として確保されたスペースすら無い。
恐らく液漏れしたコンデンサーが入っているのであろう、水気を含んだダンボールを
踏みつけ、奥へと分け入っていく。
まさに探検隊の気分だった。
面積に対して少なすぎる数の裸電球。
いくつかの棚と足元には無造作に積み上げられたパーツ群。
そして掘り起こしたホコリまみれのダンボール箱の中にそれは確かにあった。
思わず叫びだしたくなりそうな衝動を押さえ、
「あぁ、コレだね」 と平静を装う。

山積みの書類らしき束と、これまた積りに積った埃を払うと
机らしき物が現れた。そこで商談が始まる。

敵さん、ちゃんと価値を知ってやがる。
小さな電子部品の単価としては異常な価格を提示される。
手強い相手だ。
「在庫一括買上げ・現金支払い」を条件にこちらの希望額を提示する。
重苦しい無言の時間が流れる........

薄暗い倉庫の中では100%ソーラー駆動の電卓にも元気がない。

どうにか折り合いを付け、商談成立。
折り合いを付けたといっても、かなりの金額になった。
当然だ。手間隙をかければ彼だってこれらを売りさばく事ができる。
需要は確実にあるのだ。

そして今、彼の元にオリジナルJRC4558Dはひとつも残っていない。
端数を残す事なく、在庫全てを買取ったのだ。

なぜか?
敵さんは価値を知っている。こちらの身分も知ってしまった。
クローンに話を持っていかれてはたまらない。

「気にしない」とはいっても、やはり商売としては差別化を計りたい。
そして何よりも、より良い物を作りたい。自分が完全に納得できる物にしたい

そして生まれ変わったTS-9のモディファイは、それ以前の物が
ノーマルのリシューと比べ「全然違う」物だったのに対し
「猛烈に違う」物となった。
お客様には喜んでもらえるだろう。
更なる評価もしていただけるだろう。

だが、以前に買っていただいたお客様を忘れてはいけない。
前述の通り、異常な価格で入手した物なので、無料というワケには
いかないが、なるべく負担の少ない金額でこのトーンを味わってほしい。
「新しいのが出ました。買い換えて下さい」とは言いたくない。
ここまで広まったのは彼らのおかげなのだから。

ある程度まとまった数が入手できたとはいえ、その数は限られている。
これから先、在庫分を使って作ったとしても、あれだけの金額、到底ペイできる数ではない。
だからといって、「原価があがったから」とか「当店だけ」といった理由で値上げもしたくない。
偽善的かも知れないが「利益還元」的な意味合いも持たせたい。
商売の原則からは大きく外れている。



馬鹿な男だ。


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