SKY IS CRYING の巻
                                                             

 昭和40年代、彼は夕暮れが近づくと山に向かって吠えるように、そして
何かを吐き出すかのように唄っていた。
暖かい日差しの頃にはアコースティックギターを引っぱり出し縁側で爪弾いていた。


 まだまだ家電製品が不安定な時代。電気・電子工学の教師となった彼は簡素な
道具を持って現れ、不機嫌なテレビやラジオをいとも簡単に直して立ち去っていった。


 私がエフェクターをいじったりするようになったのは確実に彼からの影響だし
そもそもギターという物に興味を持ったのも彼からの影響だ。
人生を狂わされた、ともいえる。もっとも彼は本当に爪弾く程度で無責任にも
ギターを放り出してしまったが。



 私も、なんちゃら技能士という資格(一応、国家試験だったらしい)を持ってはいるが
彼には到底かなわない。簡単な回路図を見せただけで瞬時に理解してしまう。
彼はエレキギターには疎かったので音色ウンヌンに関しては理解できなかったが
回路図を見て「ここからここまでの回路があるからバラつきは取れるけど元の信号が
加工されてしまう」なんて言い当てたりもした。
時には「アメリカの××社の石(トランジスタ)××と互換性のあるヤツわかる?国内の
互換表しかなくてさ〜」と電話すると大学の教授になった彼は「互換表はないけど
規格表があったからFAXする」など資料を提供してくれた。私はその規格表と
国内パーツの規格表を見比べて互換性のある物を探し、無事修理を終える。

 また時には大学近くのジャンク屋に近いようなパーツショップで秋葉原でも入手が
難しそうな前世紀の遺物のようなパーツを買ってきてくれたりもした。

 一時期、とてもとても遠い存在に感じられた彼を、再び近い存在と感じられるように
なったのは私も彼と同じような物を背負ったからだろうか。


 彼は自らの意思で「はずれクジ」を引き続けた。



   私は「彼のようになりたかった」し、「彼のようになりたくなかった」





  その彼が他界した。
 病による早すぎる死だった。



 色々な物を背負い込みすぎた今の私には結局何もできなかった。
最後に一言二言、会話を交わした食事の席で私は無言のまま握手を求めた。
「がんばって」とか「ありがとう」とか言葉にするのはとても陳腐な事に思えた。
ただただ目を見つめ、力を込めた。


 父親の存在が希薄だった私にとって彼は「父」であり「兄」だった。
クリスマスの夜、当時の薄暗い外灯にぼんやりと照らし出された
クリスマスケーキを持つ彼のシルエットを、私は一生忘れないだろう。


    日々は何事もなかったように過ぎ去っていく。いつしか彼がいなくなった事すら
  忘れてしまいそうだ。ただ時々「ここの電圧安定しないんだよね〜」とか
  「この石、滅茶苦茶バラついてんのよ、イマドキ」とか話す相手がいない事に
  気付くと無性に寂しい。

 そして彼に真実を話さず、本当の意味で理解してもらえなかった事が悔やまれる。
一生沈黙を続け、悪者でい続けようと心に決めてはいたが
彼にだけは理解して欲しかったのかも知れない。



 ある晴れた日、山に向かい、あの日の彼を真似て吠えるように、
そして吐き出すように唄ってみた。


        でもやっぱりあの日の夕日とは違っていた。






                                                    Special Thanks to Yamakendrix


商品に関するご質問などは.....
TEL 0463-93-5484
Mail info@sound-loft.com
までお気軽にどうぞ!
メール受信設定についてのお願い

ご注文の際は こちらのページをご覧ください。

掲載の画像は撮影状況やお使いのモニターの特性によって
現物とはややニュアンスが異なる場合がございます。
予めご了承下さい。


Sound Loft
URL http://www.sound-loft.com

〒259-1114 神奈川県伊勢原市高森6-1581-13
TEL/FAX 0463-93-5484

当店MAP こちらからどうぞ!



中古屋のひとりごと 奇跡的に残っていたバックナンバーズ